The 広告 #3

 

ワッツア!

 

 

前回までのあらすじ:

美大を中退し、バブル全盛の東京でカネもないのに

蝶よ花よと遊び呆けていたプータロー啓ちゃんだが

22歳にしてようやく某デザインプロダクションに入社。

いっぱしの広告デザイナーとしてキャリアを本格的にスタートするも...

 

というわけでなかなか本題には入れず

オヤジ自分語りに終始しているこのThe 広告ももはや3回目。

まだまだ続くぜ!

 

 

+

 

 

さて

このデザインプロダクションに入社してはじめて

いわゆるちゃんとした広告というモノを作ることになったんですが

プータロー時代&以前働いてた倒産3流プロダクション(前回ブログ参照)

どう環境が変わったか?といえば

 

扱うクライアントの知名度、仕事のクオリティのレベルは数段上がり、

なにより制作物の出稿量が半端なくデカくなった、って感じ。

 

入社当初はすっげーなァーと上司&先輩のまわりをキョロキョロウロウロしてたんですけど

でもじっさい本格的に仕事を振られ始めると

じつはおれ的に デザインのやり方・仕事の進め方 は基本変わんなかった。

プータロー時代に我流で試行錯誤して組み上げたスタイルが

意外にもキチンと基本に忠実なものであった、という遠回り。いや近道?どっち?

 

 

要はさ、おもしろいこと考えて、

しゃべくりまくって周囲を納得させて、

おもしろいデザインとして世の中にドロップし

それを見た人をあっと驚かせる

と、

あらためて書いてみるとこれだけのことなんですよね。

 

 

 

前々回でも触れたけど

もともとおれは広告デザイナーになって広告やCMをバンバンつくりたかったわけではなく、

もっと漠然としたアーティスト志向というか、

横尾忠則や大竹伸朗やサイトウマコトや

デビット・サーレやロバート・ロンゴやキュビズム期のピカソみたいなことやりたいナー♪

ブレードランナーとかビデオドロームみたいなことやりたいナー♪

みたいな超ざっくりとしたボンクラ発想だったんです。

(ちなみに高校の文化祭ではアルタード・ステーツのビジュアルでポスター作った。)

 

 

アルタード・ステーツ  未知への挑戦

1981年の映画。監督は鬼才ケン・ラッセル、主演はウィリアム・ハート!

映像は当時最新のVFXでの変態シーン。

AKIRA的つーか(AKIRAの連載は1982年)サイバーパンクのハシリって感じですねー。

 

 

 

その流れで、高校時代、

なりゆきで美術研究所デザイン科受験コースに入ったので

自分の選択をちょいと正当化、というかアーティスト的な理屈づけをせねばいかんかな、と

 

「ウォーホールのレディメイド的な発想でいえば

これからのアートはキャンバスに絵具、ではなく印刷物=ポスターとして

大量生産されるのがNYっぽくて(漠然)かっこええんじゃい!」

 

という結論に達したわけ。我ながら青いな。

ポスターやビジュアル全般についてそんなアート寄りの価値観をてらいもなく持っていたので

電通や博報堂などの広告代理店に多く人材を輩出する武蔵美のシカデ(視覚伝達デザイン科)

現実的、というか現状肯定的なデザイン理論やカリキュラム、なによりその商業主義的アティテュードには

反発しかなかった(教授にも生徒にも本気で全員にムカついてた)というのが

ドロップアウトした18歳のおれのホントの正直な気持ち。

今思えば商業デザインなんだからしょうがないじゃんW。マジでおれがガキだっただけの話

 

 

 

ともあれ、

現実にはアートの世界ではなく、広告デザイナーとして歩を進めたわけなので

ここは自分の好きなアート的要素を広告にもグイグイ取り込んでいき大衆をあっと言わせないとならぬ!

と若いおれは肩に力入れまくってたわけです。

 

とはいえこのデザインプロダクションのクライアントは超メジャーであるがゆえ、

ビジュアルは大衆的ってか老若男女に受け入れられる感じが主流で、(タレントニコパチ(ニコッとしてパチッと撮る)ってのも多かった

それにいきなり飛び道具的にアート要素を入れ込む余地がなさそう...。

 

さてここをどう突破するか、なんて考えてたある日、

エロ本にしか興味がなさそうな上司のSさんが

デスクに足を上げてボロボロに擦り切れた古い本を読んでいたので

なんですかそれ?、

と貸してもらった本がこれなんです↓

 

 

 

ブレーン別冊 繁栄を確約する広告代理店DDB(1966年10/1出版)

編著 西尾忠久

 

 

 

 

 

 

そう、現代広告の基本にして到達点、と賞賛の声いまだ止まない

1959年にスタートしたフォルクスワーゲンの米国での広告キャンペーン。

それを手がけたNYの広告代理店DDBの作品や制作理論、当事者のインタビューなどを

自身も日本デザインセンターのコピーライターである西尾忠久さんが

キメ細かく丁寧にまとめあげた至極の一冊。

なのであります。

 

 

 

 

VWのほか、米SONY、オーバック(百貨店)、エイビス(レンタカー)、ラインゴールドビール、民主党など

クライアントは多岐他業種に渡り、そのどれもがシンプルで力強いビジュアル!

なのはもちろんなのですが、なによりもかによりも、

アイデア、の強度がハンパないんです。

 

 

なるほど!と膝をポンと打つアイデア、

ハッと息を飲み身震いするアイデア、

思わずニヤっとするアイデア。

 

 

VWのキャンペーンからほんの一例をあげると

 

 

「小さいことが理想」

 

1960年初頭のアメリカ車といえば、シボレーインパラに代表されるような

フルサイズでスペーシーでデコラティブなデザインが基本。(おれは大好きなんですが)

これはその米国市場に小さなドイツ車として新規参入してゆかんとするVWビートルの広告。

これ以上何を言う?的なコピーのスパッとした切れ味と

ビジュアル(ビートルの大きさ、ね)のマッチングがなるほど!と楽しい。

 

 

 

 

 

「とくにお見せするものはありません

62年型フォルクスワーゲンもいままでと同じ」

 

 

こちらはもっとイッちゃってて、なんと掟破りのノン・ビジュアル

 

掟破り、とはいえ目立ったモデルチェンジをしないVWビートルの商品特性を

ある意味バッチリ伝える、実は王道中の王道広告。

これこれ!この切れ味がDDBスタイルなんですよ。

 

 

 

 

そのほかの個々の広告の詳細や評価はここでは触れませんが(ググれカス)

「ネガティブ・アプローチ」と呼ばれるその鋭い切り口や

発想のジャンプ力、

さらにそれを支えるビジュアルとコピーライティングの徹底した磨き込みが

もう一度書きますが基本中の基本、にして到達点なのは疑いもないのであります。

 

 

 

ここでおれ自身の話にもどりますが

入社して1年くらい経ち(1992、3年くらいかな)仕事にも慣れて、

ぽちぽちそれなりにいい仕事もできるようになってきて、早くも

 

「おれこの会社で一番デザインうまいし発想力ダントツだし♪」

 

とまたもや自惚れ始めていたおれに

 

か、かっこいい...これが1960年代の広告なのか?

広告って本気でやればここまで突き詰められるものなんだ!

 

という衝撃と感動とポジティブなジェラシーをガッツーーーンと与えてくれました。

 

 

 

本書の第2部の、ウィリアム・バーンバック氏のインタビューのタイトルは期せずして

「広告はアートである」。なるほど。

 

そう、

広告にもアート的なる要素を、単なる流行のお飾りとしてデコレーションすることはできる。

でもそれは一時的に人の目を騙すことはできても本当のアートにはならない。

広告をアートにする方法は、広告づくりのあたりまえの正道を征く

その行き着く果ての果てにあるんじゃないか?

もしかしたらパン屋さんだって野球選手だってどんな仕事も極めた先はアートになるのかも。

少なくともこのDDBスタイルは最上のアートと肩を並べられるレベルのモノだ、と。

 

 

広告デザインの実戦の現場に身を置いて、

周りの空気や現実の業務や大人の事情にかまけて見えなかった大事な根本が

これを読んだあと、ぼんやり見えた気がして、それ以降おれのデザインも変化してゆくのです。

おれがアートディレクターとして、はじめてNewYork ADC 3rd placeふくめ

国内外6つのコンペで同時入賞するのはそのちょっと先のお話。

 

 

 

で、この本なんだけど、

けっきょく借りっぱなしで自分のバイブルみたいに大事にしてたんだけど

後年おれ自身、プロパー広告最前線からちょっと線を引いてった(その話はまた別の機会に)と同時に

いつのまにかどっか消えちゃってね ケロッ

上司Sさん、もう時効なんであきらめてください

 

 

こないだ古本屋でぐうぜんみつけて、

そそくさと購入するも、なんと1万5千円くらいした!

 

なんだか人も本も、縁、ってものがあるようで、

おれ自身ブックデザインばかりですっかり遠ざかってた広告の世界に

さいきんまた一歩戻り始めたまさにタイミング、でのこの本との2度目の出会い。

人生ってのはつくづく不思議なモンですね。

 

 

 

先般、炎の広告撮影無事終了!ひさびさに力の入った大型広告ポスターになります。

詳細と仕上がりをお楽しみに!

 

 

 

 

 

広告。

低俗で軽薄でけばけばしいペンキを身にまといながら、その奥は深遠で純粋な求道的世界。

ずっと片思いだったお前と、いまのおれならまたふたたび楽しめそうだぜ!

 

 

 

 

 

〜The 広告〜 やっとおしまい

 

 

 

 

前々回登場した、おれを美大受験に導いたI君は

卒業後も助手として武蔵美に勤務し、いつのまにか油画からメディアアートにスイッチ。

いまは金沢美大で教鞭を取っております。