ブックデザインラッシュ〜その2 「歴史のコラージュ 人間は時を超えて」の巻
ワッツア!
今は2016年、ここは東京三宿、有限会社ブッダプロダクションズ。
去る5月、6月とひじょうーに忙しい激戦期をやっとこさ抜けたのはいいものの
またぞろ、「都知事選候補者の政策比較」とか言って1日中ダラダラyoutube見て過ごしたり
またぞろ、「アベノミクスの効果が及んでいるかの検証」と称して夜の街をフラフラしたりしている
邪(よこしま)な誘惑に抗えない斉藤啓 aka BDAP。
そんな我が身を戒めるためにも
「毎日ひとつ新作ブックデザインをアップしてゆくぜ!うりゃあ!」
というしばりを設け、実行する運びとなったが..... ←いまココ
+
第2日目!
トルーマン・レター
高嶋哲夫 (集英社文庫)
このブログでも先行で何回か紹介している本書。
警察機関に所属する主人公がある事件の謎を追って陰謀の深淵へと迫ってゆく...
とゆう、この類の娯楽小説ジャンルのことを業界では「警察小説」と呼ぶそうな。
ミステリー仕立てでドキドキハラハラ、
娯楽性もたっぷりで読みやすく、
おまけに現実のポリティカルな要素なども入ってて、
と、おトク感満点。
書店によってはこの「警察小説」の棚や平台があるほど人気があるジャンル。
ただ、ただね。
おれの目で既存の「警察小説」のカバーデザインをざっと見るかぎり
かなりB級でザツな作り、におれには見えました。
たとえば、
人物のシルエットや後ろ姿の写真をモチーフにしたものが多くて、
なんかこれ見よがしで古臭いセンスだなあ、とか
たとえば映画のポスターよろしく、小説の内容をまんまビジュアル(=イヤになるほど説明的)に
しようとしててるのはまだいいとしても、
そのPHOTO合成の仕上がり具合が、
アルバイトにPhotoshopでチャッチャとこさえさせたようなザツなもので、
これじゃいかにも30年前のクオリティだなあとか。
まあ一言で言って
「地方のバスにぶらさがってる地元の探偵事務所の中吊り」
レベルのうさんくさい&低クオリティなブックデザインがホント多い。
(レンポジの人物写真使ってかっこよくはならん!ってのがまだわからんか!)
志が低いというか、アタマ使ってない感じ。
これはデザインする側が「B級娯楽小説なんてこんなもんでいいんしょ」
なんてうそぶいたり、たかをくくっているのは明白で、スゲー不快。
そうゆう志のないブックデザイナーは、
超かっこいいハヤカワポケットブック↑の一連のカバーデザインを手がける
装丁者 水戸部 功さんの爪の垢でも煎じて飲んでいただきたい!
(アックスマンのジャズ:デザインもさることながら小説そのものもかなりおもしろかった!!!)
まーとはいえ
このおれも当ジャンルに参入しはじめたばかりのド素人。
ゲラを読みながら、この小説にはどんなデザインがふさわしいのかな〜、といろいろ考えました。
この「トルーマン・レター」は、タイトル通り
「トルーマン大統領」、そして「日本への原爆投下」が物語の核になってるんで、
この2つのイメージをメインモチーフにすることは早い段階からまず見えてた。
が、前述したようにいかにも、既存の警察小説でござい、という絵ヅラはダサいし痛いのでまず却下。
そして重要な要素としては予算です。
文庫サイズのデザイン・フィーは単行本より抑えめ、かつ印刷する用紙なども完全にフォーマット化されています。
なので大掛かりな撮影、とかはもちろんNG。
用紙選びや造本&仕掛けを工夫する、などといった奇策にも持ち込めない。
要はシンプルにカバーの絵ヅラの強さで勝負するしかない、と。
そこでピンときた。
遡ること約30年ほど前、
18、9歳のおれが美大時代にシコシコ作ってたスクラップブックやフォトコラージュ。
▲1987〜8 ですって!
いま見てもけっこういいセンスしてんじゃねえかよ
当時はお金がまったくないガラスの10代だったもので、
買った雑誌をすみからすみまで読んで、しかも捨てるのがモッタイナイ、
という理由でヒマなとき(ほぼ毎日ヒマだった気が..)ハサミとのりでチョキチョキぬりぬり作りためてたものです。
もちろんアートなスクラップブックの始祖といえば、
1980年代中盤、彗星のように美術界に現れた大竹伸朗さん。
ちよこちょこエキシビジョンに遊びにいってはしつこくまとわりついて、
そのたびいいお話を聞かせてもらってたこともあり、彼がおれに与えた影響はいまだハンパなくでかい。
おっと話を基にもどして、
要は「トルーマン大統領」と「原爆」のビジュアル・イメージを
当時おれん中で盛り上がってたコラージュ・スタイルでクロスオーバーさせてみる、
という手法を思いつき、そのまま着手に流れ込んだわけであります。
まずはネットで「トルーマン大統領」と「原爆 広島 長崎」などで画像検索して(あれから約30年、便利な時代になりました)
ばらばらとプリントアウト。
ここでなんとなくビジュアルのイメージを掴んどいて、
おもむろにペンタブをハサミに持ち替えていきなりコラージュ試作開始!です。
▲試作第1号。
検索した画像を使ってるので画素が超荒いです。
ここではビジュアルを完成させるのが目標ではなく、
あくまで「この2つの写真を組み合わせるとどんな感じになるのか?」のという検証、
もっとわかりやすくいうとビジュアルで「福笑い」をやってる感じ。
ここの段階では「考える」というアタマの回路をできるだけすべてOFFって、
手と目の感覚だけで思いつくままどんどん組んでゆくのが、おもしろい絵をつくるコツ。
▲なんとなくタイトルの文字周りの検証。
ここまでずっと目と手の感覚だけでやっている状態ではあるんですが
「シュレッダーで切り刻まれ、闇に捨て去られた歴史」?みたいなストーリーが
不思議に勝手にアタマとシンクロしてきちゃう。
ことほどさように、作業の過程で感覚と思考がガチッとハマれば(なぜか経験上、最後には絶対にハマる)
「強い絵」は必然として完成するんですが、この時点ではまだまだ。
▲試作第3号。
ビジュアルを追う目の動線の方向、いわば絵の「木目」を縦目ではなく横目に変更。
縦は「主観」、横は「客観」、
というのがおれのビジュアルづくりの基本概念。
試作1号は、主人公が対象にダイブしてゆく動的な目線だったものが
この試作3号では、主人公が呆然と立ち尽くし対象をただ見ているだけしかできない、
といった風に、視点が大きく変わってます。
もちろんこの時点でもまったくそんなコムズカシク考えず、
無心に手と目を動かしてひたすら組むだけの状態。
▲試作第3号に着色してみた。
歴史に翻弄された人々、原爆の犠牲になった人々。
残酷でハードな雰囲気を出すため、まずは赤いインクで着色してみたのですが
あまりに血生臭くなりすぎて気が重くなってしまった。本書はあくまで娯楽小説ですからね。
なのでリキテックスのウルトラマリンや、おなじくウルトラマリンのカラーインクを指でこすりつけてみました。
▲試作3号を実際に文庫本に巻きつけてみた。
雰囲気はあります。
タイトルまわりのグラフィック・デザインもだいたい決まってきたので
この段階で集英社文庫編集部の田島X(たじまっくす)氏にチェックしてもらって
この方向でOK、というGOサインをいただく。
考えてみれば原爆とアメリカ大統領の組み合わせという、
なかなかハード、というか書籍カバーとしてはけっこうキワキワな表現ですが、
この企画を最後まできっちり指導&心強いサポートをしてくれた田島Xに感謝を!
さてGOサインが出た段階で、じっさいに使用する写真を購入。
ここからはプレ本番作業。
実際の写真を使ってまたもや試作します。
▲ここからあきらかに写真の精度が上がりましたねw
絵が重すぎて陰鬱になってもいけないし、毒を取り除きすぎたら意味がない。
それぞれのビジュアルの割合を足し引きして最適な配分比率を決めるのが、このコラージュで最も重要なキモ。
チョキチョキ切り抜いた写真の断片ひとつひとつを糊で固定せず、
▲まさに「福笑い」のようにいろいろ動かして
ベストな位置をさがしていきます。
▲だいたいバランスはこんな感じかな。
▲紙の断片をのりやテープで軽く固定。
そしてウルトラマリンのインクを垂らしたり、リキテックスをこすりつけたりして着色。
撮影時の陰影を出すために、接着面に隙間を大きく出そうと思って
紙の最終固定にはアクリリックスのハイソリッド・ゲルを使用。
木工用ボンドみたい乾くと透明になる絵画用のゲルで、盛り上げがかなり大きくできます。
▲同時にタイトルの入り方なども随時試作&検証。
▲ジェルが乾いたら最終試作version完成。
この段階で編集部にもう一度最終確認。
前述したようにテーマが社会的にもドスンと重く、表現もけっこうきわどいところで行ってるので、
見せ方をちょっと見失うと一気にグロテスクで反社会的なものになってしまいます。
そしてここけっこう重要なとこなんだけど、トルーマン大統領を、悪魔的権力者に見せるのではなく、
歴史の波に翻弄された普通の人間としてもフェアに描きたかった。
「史上最大級の無差別虐殺を指揮した権力者であり、
人種差別主義のブタ野郎、それでもおれたちと同じ、愛すべき普通の人間」
というアンビバレントさ、人間の業みたいなもの。
そこもしっかり担保させるため田島Xとともに細心の注意を払いましたよ。
というわけで
編集部から無事最後のGOサイン!
が出たのでさきほどの最終試作を基にしていよいよ本番のコラージュ制作をスタート。(まだ道は長いぜ)
って、OKがでたのでこの最終試作verをそのまま本番に使ってもいいんですけど
安いコピー用紙で勢いのままぐいぐい作ってたのでちょっと全体にペラペラしてる。
本番ではコラージュの厚み・立体感や、紙の素材感なども含め
もう1ステップ格調を高くしたほうが小説っぽいと判断したのよね。
▲そこで本番では、表面がすこしケバだった雰囲気のある厚手のクラフト紙にまずプリントアウト。
「歴史っぽさ・ドキュメント感」が一段階アップします。
あ、そーだ。
こうゆうアナログ作業って、手と目だけを動かして作業してると、単にアート作品を作ってる錯覚に陥いりがち。
が、作っているものはあくまでアートではなく書籍のカバー。
小説をくるむパッケージとなって世の中にアウトプットされ読まれ消費されてゆくっていう
デザインの機能なり宿命なりを絶対に忘れちゃいけません。
さて仕上げ。
文庫本のカバーサイズにトリミングされることを前提に
最終試作versionのレイアウトを微妙に調整しながら(ここは手だけでなくアタマもフルに使う)
ゆっくりじっくりと完成にもってゆきます。
▲最終完成版がこれ。
これをアッキーに複写撮影してもらって準備OK。、
おっと、複写撮影とあっさり書きましたが、
ライティングひとつで雰囲気をガラッと変えられわるのでここもかなり重要なポイントです
そしてレタッチのうえデザインに配置して入稿。
やっとできあがりました!(いやあーブログもやっと終わりそうだ。長文だったなあ)
本書は6月に新装版としてすでに発刊済み。
集英社文庫「ナツイチ」の選抜図書の一冊でもありますので
みなさんこの夏休みとかにぜひよんでみてくださいね!
著者の高嶋さんのtwitterも飄々としてておもしろいのでぜひチェックしてみてください。
さて今、できあがった本書を眺めていると
このコラージュ手法、警察小説だけではなくいろいろと使い道ありそう。
ファッションとかノン・フィクションとか。予算もあまりかからないところもナイス。
四六判でアラヴェールとかにスミと補色のグレー入れて
プラス、タイトルを派手な特色で刷ったらさぞやかっこよくなるだろうなー。
とワクワク感をおさえきれない斉藤啓 aka BDAPがお送りしました。
+
最後に、今回このコラージュ手法にチャレンジするべく、
30年の時を超えておれの背中を押してくれた18歳のおれに感謝!
(左は大竹伸朗さん。右がB-BOYになる前の18最のおれです。おい、おれ!なにそのコート?、ダッセーな!)